僕の母はマッサージ師をしていた。父がセレベスのトモホンで何事もなく終戦を迎えたが、武装解除でマカッサルへ終結する途中、昭和20年11月1日、原住民の物盗りに竹槍で刺されて亡くなった。母と僕は父の実家を継ぐために滋賀県へ来たが、百姓では収入が無いに等しいので、母は百姓の合間にマッサージをするため免許を取ったのだった。僕は「門前の小僧」どころか「門内の小僧」になった。僕は一人っ子で、おまけに「甘い物好き」だったので、たちまち虫歯になった。甘い物好きというだけで虫歯にはならない。本当の原因は、虫歯の菌が他から移ったに違いない。
とにかく僕は何本も虫歯になって、痛くて仕方がなかった。虫歯で肩こりも起きた。だから、漢方で言うツボは、母に押さえてもらったり、自分でも体のあちこちを押さえて分かるようになった。今では歯医者に歯痛を押さえる方法を教えているくらいだ。歯科用の椅子に腰掛けさせられて子供がワーワー泣いていたので、「先生、歯痛は相対的な痛みなんですよ。つまり、歯よりも痛いところを作ったら、歯の痛みは忘れるんです。足の指先を洗濯ばさみで挟んだら、歯の方の痛みはお留守になるんです。」といった調子でね。
しかし、ツボを押さえて水虫が治ることを本で読んで、「本当かなあ?」と思った。しかも、このツボは、水虫だけでなく、ニキビやソバカス、疔や瘍など皮膚に出るものにも効くという。どの本に載っていたかというと、著者は野口晴哉氏の「整体入門」(ちくま文庫)という文庫本である。野口氏は1976年に亡くなられているが、本は今も売っている所謂「名著」であるらしい。
僕が水虫になったのは、いつの頃か覚えていない。母も「水虫が痒い」と言っていたので、母子相伝の水虫なのだ。僕はその後、足の爪が白くなるだけの水虫になった。爪が白くなったのは治らない。熱を加えると菌が死ぬだろうと思って、爪の上に「モグサ」を置いて線香で火を付ける、すなわち「灸(きゅう)」を何度もした。「爪の上に灯をともすような生活」という用例があるが、どのような情景を指しているのかよく分からないが、爪が焦げるときほど痛いことはない。昔、日本の天主教の殉教者が火あぶりになったが、あそらく爪の痛みが脳天に刺さった感じになり、失神されたことだろうと想像できる。なんといっても、水虫の菌は不死身だね。新しく出てきた爪が、また白濁し始めるのです。内服薬もあるが、それは飲みたくない。人間の大便(ウンコ)の1割は菌の固まりだとされているから、内服薬を飲んだら腸内の菌が少なくなって、体に副作用が出そうだから。自分自身の足の白い爪とともに死ぬしかないと、僕は諦めていた。
それが、試しにこの本に書いてあるとおりに指圧したら、毎晩寝床で3回局部を押すだけなんだけど、治ってきたんだ。毎月第三木曜日、村の公民館で開かれる老人会のサロンに、僕は30分だけ時事問題や各種の啓発のための話をしている。その場に集まった20人ほどの人に対して、無礼を承知で素足を出して確認して貰ってるから本当の話なのです。どこを指圧するのか、それは図書館で借りてでも、また、大枚600円を出して購入されたら一層はっきりするでしょう。会社にいた頃に結婚されて、その後アメリカに留学して大学教授になられた人が、のろけ話に「ここが当たって痛いんや。」と言っておられたのを思い出してしまいます。
最後に、指圧で水虫が治ることを、生化学・分子生物学ではどのように説明されるのか、興味があります。抗原抗体反応のような生体防御反応のひとつとして、漢方や指圧のツボが新たな分野を開くかも知れないのです。
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